「さて、カークランド首相はこの後すぐに魚沼へと帰国したわけですが、マクワイト記者、今後魚沼政府はどのように今回の石川による侵攻に対処していくと想定されますか?」
「はい、ええとですね……実際にはかなり厳しい対応を強いられるのではないかと思われます。というのも、政治中枢たる新南魚沼自体が石川に占領されていますから、事実上魚沼は政治機能を失ってしまっているわけです。現地の情報が無いので何とも言えないのですが、大抵の場合閣僚クラスは拘束又は軟禁されるケースが多いため、与党野党を問わず、既に石川政権の手が回っていると考えられます」
「それでは、カークランド首相は本当に何も無い状態から臨時政権作りを強いられるということでしょうか?」
「恐らくはそうなるでしょう。ただ、カークランド首相には幸いなことに軍の司令部自体の失陥は免れていますので、未だ石川軍の手が伸びていない地域の戦力を再編成して対抗しつつ、関係国の協力も得ながら停戦を目指すことになるのではないでしょうか」
「一方で気になるのは石川の動きです。先日、東部軍閥のドブロニク上級大将は国際的な支援の取り組みを歓迎するという声明を出したばかりです。人道支援を実施する国々の中でも魚沼は最大級の支援を用意していたわけですが……」
「はい、それに関してはこちらのボードを見て頂きたいのですが……」

マクワイト記者が、テーブルに伏せていたボードを両手で支える。それは、石川のGDPや食料自給率に関してまとめられたレポートであった。

「国際的な統計に提出されていた水準では、ユリシーズの激突、長い内戦下という悪条件が揃いながらも、発展途上国よりは上、というレベルにあるとされてきました。ところが、これらの統計データは後の調査で軍閥の一つ「リエース派」に限定されたものであることが分かってきました。仮にリエース派の水準を取り除いた場合は……このようになります」

1枚目のボードと比べると、惨めな、と評するのが相応しいグラフが姿を現す。既に周知の事実ではあったが、当時最大勢力を誇った「リエース派」は国際支援の大半を私物化し、勢力下の都市と住民にのみ配分したのだ。否、それすら一部でしかない。その豊富な資金は、リエース派を支える軍事力へと姿を変えていたのだから。さらにその事実が、後のリエース勢力下の都市に対する徹底した弾圧へと繋がっていったのだ。

「この水準では、最早独力での経済再建は不可能なレベルです。よって、その解決策として、恵まれた経済力を有する魚沼を併合することによる国家再建へと、舵を切ってしまった可能性はあります」
「しかし、隣国へと侵攻しての再建を、国際社会が認めるとは思えませんが……」
「前にもお話したかもしれませんが、東部軍閥を中心に内戦長期化の原因は魚沼にあるという論調は非常に根強いものがあります。まだ現在の石川軍事政権は国際的な代表政府として認められていないだけに、いくつかの戦争防止に向けた条約の禁止事項にも抵触しないため、軍事政権としては電撃侵攻により魚沼併合を既定のものとする狙いがあるものと想定されます。
既にソビエト連邦政府のニカノール首相はモスクワの石川大使を召還の上、「即時停戦と撤退が為されない限りは戻る必要なし」と伝えたうえで国外追放措置を実施したり、かつての友好国であり、現在は民主化に向けたプロセスを推し進めているノルト・ベルカ自治政府も今回の石川の侵攻を厳しく非難するなど、周辺諸国を中心に早期解決に向けた動きも活発化しております。こういった政治的な包囲網を魚沼がどこまで活用出来るのかも、事態の早期収拾には欠かせないものと想定されます」
「なるほど、マクワイト記者、ありがとうございました。ではここで、新南魚沼方面からの撤退部隊を受け入れている、魚沼の六日町市からハンク・ギルバード記者を呼んでみましょう。ハンク、聞こえますか?」